小規模多品目、有機農業、半農半X。
近年、こうしたスタイルに魅力を感じて新規就農を考える人は少なくありません。しかし実際に情報を集め始めると、よく耳にする言葉があります。 「小規模多品目だと、認定新規就農は取りにくいですよ」
これは、やる気や能力の問題なのでしょうか。わたしたちが就農を考える中で感じたのは、個人の問題というより、制度そのものが想定している農業の形と、小規模多品目農業との間に大きな「物差しのズレ」があるということでした。
なぜ相性が悪いと言われるのか、その理由を制度の仕組みから整理してみます。
そもそも「認定新規就農者」とは何か
認定新規就農者とは、市町村が作成・認定する「営農計画」に基づき、将来にわたって安定した農業経営を行うと認められた新規就農者のことです。
認定されることで、青年等就農資金をはじめとする融資制度や、経営開始資金(旧:農業次世代人材投資資金)などの補助金、税制面での優遇措置を受けやすくなります。そのため、多くの人が「まずは認定を取ること」を目標にします。
しかし、この制度はあくまで行政が「農業経営として(数字上で)成立すると判断できる計画」を認定する仕組みです。ここに、大きなギャップが生まれます。
最大の壁:年間農業所得「250万円」のルール
認定を受けるための営農計画には、5年後の目標数値を書き込みます。ここで多くの自治体が基準としているのが、「5年後の農業所得(経費を差し引いた利益)が年間250万円以上」という高いハードルです。
この数値をクリアするためには、
- 単価 × 収量(単収) × 面積 を積み上げる必要があります。
しかし、小規模多品目の場合、一つひとつの作付面積が小さく、作業も複雑になるため、この「250万円」という数字を積み上げ、行政が納得する根拠を示すのが物理的に非常に難しいのです。
3. 小規模多品目農業が計画に当てはめにくい3つの理由

① 慣行農業モデルの「標準指標」との乖離
営農計画での売上計算は、農林水産省や地域の農協が公表している「標準単価」や「標準収量」をもとに行われるのが一般的です。 「こだわりの多品目を直販で高く売る」というモデルは、この標準指標からはみ出してしまうため、「根拠が不十分」と差し戻されるケースがあるようです。
② 現場の実態と「説明しやすい数字」の矛盾
多品目農業の強みは、セット販売や直売所など柔軟な販路にあります。しかし計画書では「ナスは何kg獲れて、単価いくらで卸すのか」といった単体での緻密な計算を求められます。数十品目すべてでこれをやるのは膨大な手間であり、実態よりも「説明のしやすさ」を優先した架空の数字になりがちです。
③ 多様性が「経営リスク」と見なされる
本来、多品目栽培はリスク分散の強みがありますが、計画上は「管理が複雑」「専門性がない」と判断されやすい側面があります。単一作物をある程度の面積で作るモノカルチャー(単作)の方が、行政にとっては評価しやすい「安定した経営体」に見えるのです。
善通寺市の「持続可能な農業」への期待と違和感
私が活動する善通寺市の方針には、「持続可能な農業を推進する」という言葉が見られます。この方向性には大きな期待を感じます。
一方で、善通寺市はキウイフルーツやダイシモチ(麦)といった特産品に強みを持つ地域でもあります。行政が「産地を守り、同じものを効率よく作る担い手」を求めているのであれば、私たちのような小規模多品目を目指す層との間には、まだ見えない壁があるのかもしれません。
言葉としての「持続可能」と、現場の「認定基準」がどう結びついていくのか。その運用にはまだ注視が必要です。
それでも小規模多品目を選ぶ理由

制度に合わないからといって、その農業に価値がないわけではありません。
- 初期投資を最小限に抑えられる
- キャッシュフローが速い(毎月何かしらの収入がある)
- 体力や家族との生活に合わせやすい
これらは、個人が農業を続けていく上での立派な「持続可能性」です。
まとめ|制度と理想の間で「折り合い」を見つけていく
ここまで、小規模多品目農業と認定制度の相性の難しさについて整理してきました。
農園ほたる自身はどうするのか。 実は、私たちは現在、善通寺市の農業研修制度の支援を受けています。そのため、将来的なステップとして「認定新規就農者」となることを目指して活動しています。
制度の「物差し」に戸惑いを感じつつも、あえてその枠組みの中で挑戦することを選びました。
認定を受けるためには、自分たちのやりたい農業を、行政が納得できる「経営計画」という共通言語に翻訳しなければなりません。それは決して、理想を捨てることではなく、自分たちの農業を客観的に見つめ直し、社会的な信頼(認定)へとつなげるためのプロセスだと捉えています。
- 多品目栽培の複雑さを、どうすれば説得力のある数字に落とし込めるか。
- 現場の創意工夫を、どうすれば「持続可能な経営」として評価してもらえるか。
行政と対話し、うまく折り合いを付けながら道を作っていけるかどうか。これから就農に向けて、まさに私たちの真価が試されることになります。
小規模多品目という、少し「はみ出した」農業の形が、この土地でひとつのモデルとして認められるように。一歩ずつ、丁寧に計画を積み上げていこうと思います。
参照リンクまとめ
この記事の内容をより深く理解し、正確な情報を確認するための参照サイトです。
1. 認定新規就農者制度の概要(農林水産省)
制度の全体像、認定を受けるメリットや手続きの流れを確認できます。
2. 営農計画作成の指標(香川県)
計画書を書く際の基準となる「標準的な収量や単価」のデータです。小規模多品目がこれらとどう乖離するかの比較材料になります。
- 香川県:農業経営指標(営農類型別経営モデル) ※「香川県 農業経営指標」で検索すると、品目ごとの詳細なデータが確認できます。
3. 善通寺市の農業振興計画
「持続可能な農業」という言葉の定義や、市が重点的に推進している品目を確認できます。
4. 経営開始資金(旧:農業次世代人材投資資金)
認定新規就農者に関連する補助金の詳細です。「専業」要件や所得制限などが確認できます。


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